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主役としての弓【ロングボウ】 [中世ヨーロッパ・騎士物語]

今回は飛び道具の代表格「弓」について話します。
一口に弓と言っても、これまた色々あって、ショートボウ(短弓)、ロングボウ(長弓)、クロスボウ(弩、弩弓[いしゆみ、おおゆみ])と、それぞれ形状や特性が違います。

弓は古くから狩猟などで使われ、長く飛び道具の代表格として使われ続けてきましたが、中世初期のヨーロッパにおいて、弓兵はあまり重要な戦力ではなく、身分の高い人たちが戦場で弓を射ることはあまりありませんでした。騎乗の戦士が弓を持つことがなく、当時はたいした射程も持たなかったので弓兵はなかなか活躍できなかったんですね。

それが大きく変わったのがーー以前にも取り上げましたがーー、第一回十字軍でした。セルジューク・トルコ軍の騎馬弓兵から機動力を持った弓の脅威を教えられた西洋人達は歩卒身分を騎兵化し、軽装騎兵を取り入れたのです。

そして、弓兵部隊の集大成的な意味を持つのが歴史に名高いクレシーの会戦(1346年)です。この戦いはフランスの王位継承権を巡るフランスとイングランドとの戦争、百年戦争(1337−1453)の一局面として大きな意味を持った会戦です。ここで弓兵は一躍主役に躍り出たのです。

騎士全盛の当時、騎馬兵に対抗できうるのはーーこれも以前紹介したーー【ビル】を携えた歩兵だけでした。にもかかわらず、ノルマンディに上陸したイギリス軍に槍兵は一人もおらず、騎乗した兵の数も多くはありませんでした。そのかわり約7000人の弓兵がいたのです。とはいえ傍らに馬はいない徒歩の弓兵。そんな相手は恐くないと、フランス騎兵は一気に突撃を企てますが、待っていたのは鋼の鏃(やじり)の雨あられ。フランス軍は何もできずに終わってしまったのです。

イギリス軍の弓兵が持っていたのはロングボウ(長弓)というイングランドで発明された特殊な弓でした。長さ2m弱の大きな弓で、主材は軽いイチイの木。それに牛の腱を巻いて弾性を強め、弦は山羊の革をよりあわせて作ってありました。その射程は300〜350m。貫通力こそクロスボウ(弩弓)に劣りますが、山なりに放たれた矢は敵を串刺しにするほどの威力がありました。特筆すべきはその射出速度。弩弓の3倍の速度で発射できたといわれます。手練れの弓兵なら1分間に6本の矢を放つことができました。

戦場では常に脇役だった弓兵が主役になる。長い年月の間眠っていた力が一気に爆発する。その影には実に何千年にも渡る弓兵達の努力があって、ようやく日の目を見たんでしょうね。ロマンを感じます。なんて、勝手にドラマチックにしてしまって申し訳ない、、、(笑)。そんな飛び道具の代表格も銃器の登場とともにしだいに姿を消します。熟練に長い時間を要する弓に比べ、銃器は操作を覚えてしまえば簡単に使えてしまうので人気が出るのも必然だったのでしょうか。なんだか、この当時から時代とともに「職人」が消えていってしまっているような気がして寂しい思いがします。

☆参考資料

武器甲冑図鑑

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  • 作者: 有田 満弘, 福地 貴子, 諏訪原 寛幸, 市川 定春
  • 出版社/メーカー: 新紀元社
  • 発売日: 2004/08
  • メディア: 単行本


武器屋

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  • 作者: Truth In Fantasy編集部
  • 出版社/メーカー: 新紀元社
  • 発売日: 1992/01
  • メディア: 単行本


世界の戦争 (5)

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  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1985/12
  • メディア: 単行本


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