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『騎士—その理想と現実』〜ブックレビュー〜 [中世ヨーロッパ・騎士物語]

 最近図書館で借りて読んだ本です。正直、ちょっとマニアックかもしれません。

騎士―その理想と現実

騎士―その理想と現実

  • 作者: J.M.ファン・ウィンター
  • 出版社/メーカー: 東京書籍
  • 発売日: 1982/01
  • メディア: 単行本


 本格的な専門書ですが、意外と面白く書かれているので読みやすいかもしれません。今回は自分の専門分野(と言ってしまうと畏れ多いんですが)の話で、興味を持ったところをメモする程度なので、ご覧になる方は面白くないかもしれません…。

fussen-ritter.jpg
 ミュンヘンのおみやげ屋さんのディスプレイです。

 この本は三章で構成されていて、核となるテーマは、中世ヨーロッパの騎士階級とはどういう人たちで、どんな思想を持っていたのか、また貴族と騎士ってどう違うのか、ということだと考えていいと思います。内容について少しだけ書いてみようと思います。

 これはドイツに限った話ですが、ドイツにおいては、騎士の成立過程で「ミニステリアーレ」と呼ばれる人々が重要な位置を占めていました。ミニステリアーレとは不自由身分の家人のことで、著者は彼らこそが成立期における騎士階級の担い手だったと言っているのです。不自由身分という「生まれの賤しい」身である彼らは、主君に働きが認められればより良い地位につくことができるという面もあったので、精一杯主君に仕え、主君にとっては自由身分の封臣よりも信頼できる存在だったと言います。

 また、私はこの点にひじょうに興味を引かれたのですが、ごく普通の農民が主君のおぼし召しによってミニステリアーレに出世するという事例もよく見られたそうです。つまり、主君の目に留まりさえすれば、農民も騎士になることができたということです。これはおそらく12世紀頃までのことで、もちろん、その家自体が武具を買いそろえられるくらいお金を持っていなければいけないという問題もあるでしょうし、一代で一足飛びに高い地位につけるということもないでしょうが、これは中世世界の社会的流動性を考える上で重要なことだと思ったので、これについて詳しく調べたら面白いのではないかと思いました。

 さて、著者はこの本を通して、騎士というのは貴族から出た概念ではなく、それより低い身分であるミニステリアーレから出たものだということを証明していきます。それはもっぱら文献研究の手法なのでここで書くのはやめておきたいのですが、重要なのは、騎士の概念を最もよく特徴づける「奉仕」の理念は、低い身分のものが社会的上昇を目指して、精一杯主君に仕えたからこそ生まれてきたのだということだと思います。著者は13世紀以降、騎士階級に貴族身分が加わると騎士の理想は崩壊していったと論証しています。

 この他、中世における身分と階級の問題など、さまざまな点で勉強になりました。この本で「ミニステリアーレ」にたいへん興味を持ったので、もっと調べたいと思いましたし、もしかしたら卒論のテーマまでつながっていくかもしれません。
タグ:中世 騎士
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コメント 4

コヨウ

騎士の心得に信義というものがあると聞きますが。では信義とは一体なんなのでしょうねぇ…。
うん。やはり人の心理というのは楽しいですね。
by コヨウ (2008-06-09 01:45) 

アマカワ

おお~。
卒論のテーマになるやも?
良いテーマ発見おめでとうございます。あとは深めていくだけですね!!
頑張ってください!

っていうか、ミュンヘンのディスプレイ欲しいな(笑
by アマカワ (2008-06-10 03:11) 

イソップ

コヨウさん、コメントありがとうございます。

騎士の場合の信義というと、やはり主君に対する忠誠を果たすことになるのではないでしょうか。ただ、これも理想であって、往々にして守られていなかったようですが…。
by イソップ (2008-06-10 21:16) 

イソップ

アマカワさん、いつもありがとうございます。

ミュンヘンのこの写真はかなりお気に入りです。このまま持ってきて飾りたいくらいです(笑)
by イソップ (2008-06-10 21:17) 

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