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米澤穂信『ボトルネック』〜ブックレビュー〜 [小説・本の紹介]

 最近、週1の更新が定着しつつあります。今日も小説のご紹介。


 米澤穂信さんの『ボトルネック』。穂信さんにしては、軽妙さがあまりなく、全体を通してシリアスな雰囲気の作品でした。


ボトルネック (新潮文庫)

ボトルネック (新潮文庫)

  • 作者: 米澤 穂信
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2009/09/29
  • メディア: 文庫



 亡き恋人を偲んで訪れた東尋坊で、崖から転落したぼく「嵯峨野リョウ」。気付くと彼は住み慣れた金沢の街にいました。しかしそこは似て非なる世界。家に戻ると生まれてこなかった姉がいて、家にも所々違いがあります。それは姉が生まれ、ぼくが生まれなかった世界でした。


 もし、自分が生まれていなかったら、自分と関係のある人々は、自分の周りの世の中は、もっと幸せだったのかもしれないーー。そんな想像はしても意味のないことで、人は与えられた命を生きることしかできません。


 でも、その想像を目の前に真実として示されたら、それくらい残酷なことはないと思います。主人公のぼくは、迷い込んだ世界で、この残酷な「間違い探し」を迫られます。自分の世界では潰れていたはずのお店が続いていて、仲違いしたはずの両親がベタベタで、亡くなったはずの恋人が生きていて…。


 自分が不幸なのは仕方がないと、すべての災いを受け入れることで人生のつらさを凌いできたぼく。でも、それは「姉」ならば変えられた不幸でした。人生の場面場面で姉がとった行動は、物事を好転させ、幸せな結果を生んでいました。ぼくにとってそれは、自分の無能力さの証明、自分の怠惰の証明に他なりません。


 何事も受け入れて、想像力がなく、無気力。そんな「ぼく」の性格が、今の自分の状態に重なって、私はものすごく落ち込みながらこの本を読みました。もしかしたら彼は、現代に生きる「草食系男子」の典型なのかもしれません。


 主人公の置かれた状況は、あまりにもむごく、あまりにも救いがなさ過ぎると、私は感じました。今の私の精神状態の中では、とても楽しめたとは言い難い内容でした。ただ、だからこそ深く考えさせられました。自分もこのままだと、どんどん良くない方向に進んでしまうのではないか、でもそれは、自分のやり方しだいで変えられる未来なのかもしれないと、そう思うことはできました。


 その意味では私にとって、とてもタイムリーな作品だったと言えるかもしれません。しかし、考えたところでできるかどうかは別問題。変われるか、変われないか。乗り越えられるか、できないか。この煮え切らなさまで「ぼく」と同じで、心底悩んでいます。


 結局、この「煮え切らなさ」の中でもがき続けるのが人間なのかなぁ…、と何を悟ったようなことを書いているんでしょうか。


 この記事を書き始める前は、正直この作品に良い印象を持っていなかったのですが、書いているうちに、自分の思考に強い影響を与えていることに気付いて、すごい作品だという結論に達してしまいました。ホントは、穂信さんはもっと軽いノリが好きなんだけれども…。

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イソップ

donさん、初めまして。
お寄りいただき、niceありがとうございます。

by イソップ (2011-04-02 22:31) 

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