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道尾秀介『ノエル』〜ブックレビュー〜 [小説・本の紹介]

 道尾秀介さんの小説『ノエル』を読みました。美しい物語たちの物語です。


ノエル: -a story of stories- (新潮文庫)

ノエル: -a story of stories- (新潮文庫)

  • 作者: 道尾 秀介
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/02/28
  • メディア: 文庫



 この小説は「光の箱」「暗がりの子供」「物語の夕暮れ」の3篇と「四つのエピローグ」で構成されていて、それぞれは独立した物語でありながら、同じ人物が出てきて繋がっている物語でもあります。


 本屋さんでこの本を手にしたとき、タイトルを見てもしやと思ったんですが、やはり最初のお話は新潮社刊の短編集『Story Seller』に収録されていたお話でした。私が道尾秀介さんをはじめて知った短編だったので、よく憶えていましたし、この話の続きが読めると思うとワクワクしました。

 「光の箱」は絵本作家の青年の物語。小学生の頃からいじめに遭い、自分で物語を書くことに救いを求めていた圭介は、中学校で出会った弥生と親しくなり、圭介の物語に弥生が絵を描くという遊びを始めます。高校生になると二人の関係はより親密になっていきますが、弥生もまた暗い境遇を抱えており、ある事件をきっかけに二人は別れてしまいます。


 何年も前に読んだ物語を再読する機会はあまりありませんが、以前と変わらぬ新鮮さで、どんどん読み進めてしまう魅力がありました。十代の未熟さと、つらい境遇を経験していることによる不釣り合いな大人っぽさが混ざり合う、主人公たちの悶々とした感情が胸に刺さります。それでいて、圭介が生み出す物語には光と救いがあるんです。


 「暗がりの子供」はもうすぐ妹が生まれる小学生の女の子、莉子が主人公。左足が上手く曲がらず、お腹が出ていて、からかわれるのがつらくて小学校ではだれともしゃべりません。赤ちゃんはきっと自分よりもかわいいから、お母さんを取られてしまうんじゃないか、そんな不安を抱えています。


 莉子の唯一のお友達は図書館で借りた絵本『空とぶ宝物』(圭介作)。不思議な冒険をする主人公の女の子と自分を重ねて、物語は絵本と現実を行ったり来たりしながら進んでいきます。次第に莉子は女の子と心の中で会話ができるようになり、ある暗い感情が増していきます。


 つらい感情を小さな身体に抱え込んだ女の子の心情を、どうしてこんなに上手に語れるんだろうと思います。大人は気づかなくても、子どもは精一杯考えて、一生懸命に生きている、それを作者は知っているんですね。大人になると忘れがちですが、自分もそうでした。莉子ほど苦悩したとは思いませんが、子どもも子どもなりに人生を生きているんです。


 「物語の夕暮れ」は妻を先立たれた元小学校教師の老人のお話。定年後は妻と一緒に児童館で童話の読み聞かせをしていました。子もなく、妻も亡くし、教師生活でも何も残せなかったと嘆く老人が、人生も残りわずかになって、思い出したのは幼き日の記憶。地元のお祭りで、好きな女の子と一緒に歩いて、自分の作ったお話を聞かせていた頃のこと。老人はある決心をします。


 自分の生きた人生の中で何かを残したい、後に続く世界に爪跡を刻みたい、という思いは私にもあります。何もできなかったと嘆く老後は、どんなにつらいことでしょう。でも、そんなことはないのです。自分が生きた足跡は、必ず誰かが見ていて、必ず誰かの心に種を蒔いているはずです。この物語は、そのことを教えてくれています。


 この小説の中の物語には、「天地が逆転する」というモチーフがあります。それはミステリー的なトリックとしての場合もありますが、文字通り上下がくるっと回るイメージというか、価値観が逆転するというか、そういった場面が見られます。前に道尾作品を読んだ時にも感じましたが、この小説でも強く感じました。


 今作ではその「逆転」は良い方向に回ってくれて、読んでいる方は救われるのですが、道尾作品の中にはそうではないものもあって、それが時々怖くもあります。


 この作品のテーマは、やはり物語による「救い」だと思います。彼らと同じように、やはり私も、物語に救われて生きているんだなぁと、改めて思いました。私もいつか、物語で誰かを救えたら、と思う今日この頃です。


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