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佐藤多佳子『明るい夜に出かけて』〜ブックレビュー〜 [小説・本の紹介]

 小説の紹介をします。佐藤多佳子『明るい夜に出かけて』。私がこの本を知ったきっかけは、Twitterでフォローしているラジオリスナーの方がつぶやいたからでした。偶然であった本ですが、とても心に残る作品でした。ラジオリスナーなら必読の書です。


明るい夜に出かけて

明るい夜に出かけて

  • 作者: 佐藤 多佳子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2016/09/21
  • メディア: 単行本


 おそらく「アルコ&ピースのオールナイトニッポン」を聴いていた方なら当然のように読んでいるだろう本で、私が今更言うまでもないことなのでしょうが、この作品は、その番組への愛が詰まっています。


 主人公はラジオ好きな大学生で、中学生の頃から投稿していたネタ職人。ただ、自身のコンプレックスを巡るある事件からネット上に本名とラジオネームを晒され、そのことで大学を休学し、深夜のコンビニでアルバイトをする生活を送るようになっていました。物語は、主人公がそこで出会った人々とラジオとの交流を通して、再び前を向く意欲を取り戻していく方向に展開していきます。


 この物語の登場人物は、みんな“二つ以上の名前”を持つ若者たちです。つまり、現実世界の本名の他に、ネットやSNSやメディアの世界で別の名前である種の知名度を持っているのです。ラジオ、YouTube、ニコ生、アメーバピグ、Twitter…。そこは本来の自分とは違う人格を作れる場所でありながら、フィクションではなく、現実世界の一部として存在する世界です。



 実はこれは特別なことではなくて、現代に生きる“若者”なら普通に接している環境であって、誰もがこの登場人物に色々な場面で共感できると思います。私の話をするならば、本名以外に、このブログを書くときは「イソップ」ですし、ラジオにメールを送るときは「与太ガラス」となります。


 この世界では自分と全く違う虚像を造り上げることもできますし、実際の自分に寄せることもできます。「ネカマ」という言葉があるように、性別の違うイメージを造ることもできます。私の場合はブログをFacebookとも連動させているので、現実の友人が見ることもあって、自分に近いように記事を書いている自覚はあります。まあそれでも多少はイイカッコしてるでしょうが(笑)


 さて、この物語に出てくる人物たちは、みんなどこかで孤独を抱えているように見えました。接触恐怖症で女性の手も触れない主人公、発言や行動が奔放すぎて周囲から変人に見られる女子高生、現実は醜男だけどアバターはイケメンに盛りまくる大学生、何でもそつなくこなすけど女に振り回される「歌い手」コンビニバイト…。みんな“もう一つの現実”では一定の評価を受けながら、現実では理解されない孤独を抱いていました。


 その解決の糸口になるのは、やっぱり出会いだったのかなと思います。それは現実の中での出会いで、自分を理解してくれる人に出会うことが、人を勇気づけてくれるのだと思います。それが自分が好きなものを好きと認めることにつながって、そこでようやく救われるんじゃないかと思いました。


 もう一つ、この小説の中におけるラジオの描かれ方が私には強烈に共感できました。主人公のラジオに対する意識、番組に対する愛、パーソナリティーと一緒に番組を面白くするんだという気概、Twitterで実況に参加しながらラジオ番組を聴く空気感、まさにいま自分が立っているラジオとの関係性に非常に近い感覚を追体験しているようでした。


 さらに、この物語の中心には「アルコ&ピースのオールナイトニッポン」があって、番組の内容も結構な割合で文章の中に入っているのですが、私はこの番組を聴いていなかったことを本当に悔しく思いました。この番組を聴いていたリスナーがどれだけ幸せだったかと思いました。


 いま、アルコ&ピースはTBSラジオで「D.C.GARAGE」という番組のパーソナリティーをやっていて、私も聴いているのですが、「オールナイト」時代のリスナーの熱量にはとても敵わないという感覚を持っていて、この小説を読んでそれに納得しました。この小説を読んだだけでも「アルピーANN」が如何に伝説的な番組だったかが想像できます。


 ラジオリスナーはこの物語に間違いなく共感できます。ラジオを聴いていない人は、間違いなくラジオの良さを理解できます。もう一度書きますが、ラジオリスナー必読の書です。

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