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令和元年 五月一日 手記 [日記]

 令和最初の日の昼下がりは、少し汗ばむくらいの陽気だった。空は一面に雲が垂れ込めているが、太陽の光は強い。ここ数日の寒さに騙されて、朝一でヒートテックのモモヒキを穿いたことを忘れて出てきてしまった。汗ばむどころか、有栖川に向かう坂道を登って歩いていると、途端に汗が噴き出してきた。しまった、ネルシャツの下も長袖だ。

 有栖川宮記念公園に入ると、鳩が出迎えた。誰かがエサでもぶちまけたのか、十数羽の嘴が地面を突いている。公園の中は少し涼しい。昨日の雨の残り香が草花から漂い上ってくる。水を含んだ土が靴の裏を滑らせる。

 芝生の広場は若い親子連れが占拠していた。広場のぐるりで子どもたちが自転車レースをしている。子どものひとりが自転車で転んで寝転がっていると、母親が邪魔だから早く立ちなさいとたしなめる。母とは強い生き物だ。

 公園の敷地内にある図書館で、ペルーの文化を紹介する展示が行われていた。ただ歩くためだけに家を出たというのもお粗末なので、この展示会を今日の目的地とした。

 都立中央図書館の4階展示室で、「ペルーに渡った日本人」というタイトルの企画展は行われていた。地理の教科書に載っているようなキャプションが並んでいる中、ペルーの動植物を写した写真集が目に留まった。切り取られた南米の自然豊かな風景、躍動する鳥たちの写真を見ると行ったこともない地球の裏側の世界が、匂いを漂わせて迫りくるような感覚をおぼえた。

 久しぶりに知的な好奇心をくすぐられた気がした。令和の初日にリハビリでもしているようだ。

 図書館を出て、しばし公園を散策する。そういえば藤が見頃かと思い、藤棚を天井とする四阿に足を向けた。しかし四阿には藤はほとんど咲いてはいなかった。花が落ちた跡も見られない。ここの藤はもう咲かないのだろうか。

 公園を出て広尾の駅前をかすめて帰ることにした。ゴールデンウィークだけあって人通りも多い。

 ふと、昨日の夜、テレビの中で繰り広げられていたお祭り騒ぎを思い出した。平成にはこんな事がありました。あれが流行りました、スポーツはこんなでした、沢山の災害が起こりました…。改元を前にして、渋谷はこんなです、皇居前にはこんなに人がいます、今日結婚する人たちが、明日生まれる命が、あっちで、こっちで、そっちで、みんなが令和を待っています。

 どの局も同じようなことをやっていたが、何を伝えたいのか、自分が何を感じればいいのかまったくわからない、奇妙な番組だった。

 果たして“みんな”は令和になる日に、わくわくしていたんだろうか。“みんな”は本当にいたんだろうか。私をはじめとする“みんな”は、天皇制を基にした予め設定された改元という行事を持て余しているように思えた。

 信号待ちをしていると、不意に頭上からひらひらと落ちてくるものがあった。足元を見ると、アスファルトには楕円の白い花弁がいくつも落ちていた。周囲を見回すと街路樹のハナミズキが並んでいる。数日前まで純白を競うように咲いていた花は、盛りを過ぎてしまい、傷んで汚れたその白は、生きる糧を失ってしまったようだ。

 平成は終わった。私はいったい、どこに帰ればいいのだろう。


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