SSブログ

小説「うかぶ絵、にじむ夢」第一回XR創作大賞 提出アイデア1 [小噺・小ネタ]

 TwitterでXR創作大賞なるものを見つけまして、面白そうだったので応募してみることにしました。XR(VR、AR)に関してはまったくの素人です。ピントがずれていたらそっと閉じてください。


以下、本文

 目を開けると白い壁に囲まれた六畳ほどの空間の中にいた。真ん中に机があり、その上にふわふわと白い紙が浮かんでいる。風になびくほど柔らかくはなく、折り曲げられないほど硬くはない。角度を変えてフラットにして見ると、少し厚手で、表面がざらざらしているのがわかる。画用紙だ。よし、今日はここで絵を描こう。

 目線を動かして画材を探す。右手に棚が現れた。油彩、水彩、色鉛筆…、様々な道具が並ぶ中から、瞬きをして水彩の絵の具セットを選ぶ。虹海堂(にじみどう)製のパステリアルシリーズ。老舗絵具メーカーの同社がVRに参入してから3年経つが、この世界ではトップシェアを誇っている。ヴァーチャルを主戦場にしてきた企業とは混色の深みが違う。お気に入りはトルコ石を砕いて造った青だ。

 ケースは昔ながらの麻袋。なんだかんだで形から入るタイプ。雰囲気って大事でしょ?紐をほどくと筆、パレット、筆洗が飛び出し空間を浮遊する。目線でいつもの位置に誘導し、準備はOK。おっと、絵の具を出すのを忘れてた。絵の具はいつも自分の目線より上の空間に浮かべている。構図を考える時にボーッと上を向くクセがあるから、そのときに思いついた色を直感的に拾えるようにしている。寒色から暖色の順になるように並べ、それを輪っかにしてくるくる回す。色を選ぶ時も瞬きだ。

 筆も選ぼう。まずは平16号。目線と首の動きで筆を動かし、瞬きで色を置く。最初はこの動きに慣れなかったけど、すぐにしっくり来た。手で描いている感覚が欲しければ、かなり精巧なインターフェイスもあるけれど、いまはもうこっちの方が自分の感覚で絵が描ける。リアルで画材に触れてこなかったのもあるのかな。幼い頃に家でぬりえをしていたら、ママに「床とか壁とか汚すんだからやめなさい」って叱られたのをいまでも覚えてる。あれ以来、おえかきは苦手だと思い込んでいた。

 こっちの世界に来るようになって、VR美術館を訪れた時に本当に驚いた。この世界で造られた芸術品は、美しくて、笑えて、なにより自由だった。それからこっちでの創作活動に没頭した。のめりこむと三日三晩描き続けてることもあるから、これから始めようとしてる人は本当に気を付けてね。気付いてなくてもお腹は減ってるし、喉は渇いてるから。気が散るからやだって人もいるけど、アラート機能はONにしておいた方がいい。長時間のご使用はお身体に障ります、ファミコンの頃からの鉄の掟ね。

 そうそう、初めて美術館に行った時に一番感動した作品があってね。それは「おひさま」ってタイトルの彫刻だったんだけど、創ったのが生まれつき腕がない人だったんだ。それが信じられないくらい美しくて、気付いたら涙が溢れていて、もうゴーグルが水浸しになっちゃうくらいだった。

 目線誘導のシステムは四肢に障がいがある人にも芸術を開放したんだ。それは新しい芸術のはじまりだったって言う人もいる。そして、本当の意味でVRに対する世間の目が変わったのもその時だったとも言われている。

 あ、あれ?あーあ、またやっちゃったよ。気付いたら画用紙からはみ出して、アトリエ全部に絵を描いちゃった。またママに叱られる。…なんてね。


nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 3

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。