佐藤多佳子『明るい夜に出かけて』〜ブックレビュー〜 [小説・本の紹介]
小説の紹介をします。佐藤多佳子『明るい夜に出かけて』。私がこの本を知ったきっかけは、Twitterでフォローしているラジオリスナーの方がつぶやいたからでした。偶然であった本ですが、とても心に残る作品でした。ラジオリスナーなら必読の書です。
おそらく「アルコ&ピースのオールナイトニッポン」を聴いていた方なら当然のように読んでいるだろう本で、私が今更言うまでもないことなのでしょうが、この作品は、その番組への愛が詰まっています。
主人公はラジオ好きな大学生で、中学生の頃から投稿していたネタ職人。ただ、自身のコンプレックスを巡るある事件からネット上に本名とラジオネームを晒され、そのことで大学を休学し、深夜のコンビニでアルバイトをする生活を送るようになっていました。物語は、主人公がそこで出会った人々とラジオとの交流を通して、再び前を向く意欲を取り戻していく方向に展開していきます。
この物語の登場人物は、みんな“二つ以上の名前”を持つ若者たちです。つまり、現実世界の本名の他に、ネットやSNSやメディアの世界で別の名前である種の知名度を持っているのです。ラジオ、YouTube、ニコ生、アメーバピグ、Twitter…。そこは本来の自分とは違う人格を作れる場所でありながら、フィクションではなく、現実世界の一部として存在する世界です。
おそらく「アルコ&ピースのオールナイトニッポン」を聴いていた方なら当然のように読んでいるだろう本で、私が今更言うまでもないことなのでしょうが、この作品は、その番組への愛が詰まっています。
主人公はラジオ好きな大学生で、中学生の頃から投稿していたネタ職人。ただ、自身のコンプレックスを巡るある事件からネット上に本名とラジオネームを晒され、そのことで大学を休学し、深夜のコンビニでアルバイトをする生活を送るようになっていました。物語は、主人公がそこで出会った人々とラジオとの交流を通して、再び前を向く意欲を取り戻していく方向に展開していきます。
この物語の登場人物は、みんな“二つ以上の名前”を持つ若者たちです。つまり、現実世界の本名の他に、ネットやSNSやメディアの世界で別の名前である種の知名度を持っているのです。ラジオ、YouTube、ニコ生、アメーバピグ、Twitter…。そこは本来の自分とは違う人格を作れる場所でありながら、フィクションではなく、現実世界の一部として存在する世界です。
近藤史恵『キアズマ』〜ブックレビュー〜 [小説・本の紹介]
これ、映画化決定!と読み終わった瞬間に自分の中で勝手に決めてしまいました。近藤史恵さんの自転車ロードレースシリーズ4作目『キアズマ』を読んだ感想です。映画でやったら絶対に観に行きます。
長編としては『サクリファイス』『エデン』に続く3作目ですが、過去2作がプロの物語を描いていたのに対し、こちらは大学の自転車部のお話です。主人公が大学から自転車を始める設定ということもあり、自転車ロードレースを全く知らない初心者の方でも入り込み易い作品だと思います。
主人公の岸田正樹は大学に入学してすぐに、自転車部の先輩とトラブルになり、不慮の事故から部長の村上に全治10ヶ月のケガを負わせていまいます。そのことで村上から自分の代わりに自転車部に入って欲しいと請われ、1年間を条件に入部することに。柔道の経験がある正樹は次第に実力をつけ、部のエース櫻井と肩を並べるまでになります。
長編としては『サクリファイス』『エデン』に続く3作目ですが、過去2作がプロの物語を描いていたのに対し、こちらは大学の自転車部のお話です。主人公が大学から自転車を始める設定ということもあり、自転車ロードレースを全く知らない初心者の方でも入り込み易い作品だと思います。
主人公の岸田正樹は大学に入学してすぐに、自転車部の先輩とトラブルになり、不慮の事故から部長の村上に全治10ヶ月のケガを負わせていまいます。そのことで村上から自分の代わりに自転車部に入って欲しいと請われ、1年間を条件に入部することに。柔道の経験がある正樹は次第に実力をつけ、部のエース櫻井と肩を並べるまでになります。
小説『インフェルノ』(ダン・ブラウン)感想〜ブックレビュー〜 [小説・本の紹介]
ダン・ブラウンのロバート・ラングドンシリーズ第4弾、小説『インフェルノ』を読みました。スマホの襲来で本を読む時間が減っている私ですが、文庫版が出たので衝動買いして読みました。読んでみると一気に引き込まれて、上中下3巻を読み切ってしまいました。
今回もジェットコースターストーリー。歴史的な書物を巡る謎解きであり、世界の観光スポットを巡る旅行記であり、現代の社会問題を巡る問題提起小説でもある、非常によく練られた物語です。
ネタバレでない書き方をするのが難しいのですが、今回はダンテの『神曲』、とりわけその中の「地獄篇」が主要テーマになります。そしてフィレンツェ、ヴェネツィア、イスタンブールの観光名所を巡ります。さらに世界の人口過剰が問題となります。
・・・大変幼稚な書き方になってしまいました。
改めて。我らがロバート・ラングドンが、フィレンツェにある病院で目覚めるところから今作は始まります。彼はここ二日間の記憶がなく、自分がなぜフィレンツェにいるのかも分からない。しかも頭に弾丸がかすめた痕があり、何らかの事件に巻き込まれたショックで記憶を失った恐れがあるーー。
と、そこへ銃をぶっ放しながら押し入るスパイクヘアの殺人鬼、逃げるラングドンと担当医、手がかりはなぜか手にしていた小型プロジェクターから映し出される一枚の絵、ボッティチェルリの「地獄の見取り図」。追っ手から逃げるため、記憶を取り戻すため、ラングドン教授の謎解きと冒険が始まります。
今回もジェットコースターストーリー。歴史的な書物を巡る謎解きであり、世界の観光スポットを巡る旅行記であり、現代の社会問題を巡る問題提起小説でもある、非常によく練られた物語です。
ネタバレでない書き方をするのが難しいのですが、今回はダンテの『神曲』、とりわけその中の「地獄篇」が主要テーマになります。そしてフィレンツェ、ヴェネツィア、イスタンブールの観光名所を巡ります。さらに世界の人口過剰が問題となります。
・・・大変幼稚な書き方になってしまいました。
改めて。我らがロバート・ラングドンが、フィレンツェにある病院で目覚めるところから今作は始まります。彼はここ二日間の記憶がなく、自分がなぜフィレンツェにいるのかも分からない。しかも頭に弾丸がかすめた痕があり、何らかの事件に巻き込まれたショックで記憶を失った恐れがあるーー。
と、そこへ銃をぶっ放しながら押し入るスパイクヘアの殺人鬼、逃げるラングドンと担当医、手がかりはなぜか手にしていた小型プロジェクターから映し出される一枚の絵、ボッティチェルリの「地獄の見取り図」。追っ手から逃げるため、記憶を取り戻すため、ラングドン教授の謎解きと冒険が始まります。
『ヴァン・ショーをあなたに』〜ブックレビュー〜 [小説・本の紹介]
「ビストロ・パ・マル」シリーズと言って良いのでしょうか、『タルト・タタンの夢』に続く第2集である近藤史恵さんの『ヴァン・ショーをあなたに』を読みました。
前作に続き、フランス料理店「ビストロ・パ・マル」を舞台に日常のミステリーが繰り広げられますが、今作は途中から語り手が変わります。前作の全話と今作の4話まではギャルソンの高築君が一人称で語ってくれていましたが、5話目はビストロに来店する客の目線、6話、7話は舞台がフランスで、修業時代の三舟シェフが出会った人たちが語り手をしてくれます。
内容は変わらず、悩みを抱える客にたいして、やたらと鋭い三舟シェフが謎や悩みの種を解き明かしていくミステリーです。簡単な紹介になってしまいますが、フランス料理の知識がなくても、気軽に楽しめて、フランス料理が食べたくなる作品です。
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前作に続き、フランス料理店「ビストロ・パ・マル」を舞台に日常のミステリーが繰り広げられますが、今作は途中から語り手が変わります。前作の全話と今作の4話まではギャルソンの高築君が一人称で語ってくれていましたが、5話目はビストロに来店する客の目線、6話、7話は舞台がフランスで、修業時代の三舟シェフが出会った人たちが語り手をしてくれます。
内容は変わらず、悩みを抱える客にたいして、やたらと鋭い三舟シェフが謎や悩みの種を解き明かしていくミステリーです。簡単な紹介になってしまいますが、フランス料理の知識がなくても、気軽に楽しめて、フランス料理が食べたくなる作品です。
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米澤穂信『王とサーカス』完読〜報道について考える〜 [小説・本の紹介]
六公国シリーズ第2弾 <道化の使命>三部作 完読! [小説・本の紹介]
今回は王道ファンタジー【六公国シリーズ】の邦訳第2弾ロビン・ボブ<道化の使命>3部作のご紹介です。<ファーシーアの一族>3部作の続編で、物語は前作の15年後から始まります。
左から
『黄金の狩人』
『仮面の貴族』
『白の予言者』
前の三部作はそれぞれ上下巻だったのですが、今回は3巻、3巻、4巻という大作になっています。なので写真は一冊ずつでご容赦ください。
最初の作品を読んだのは、おそらく高校生の時だと思うのですが、長い時をかけて<ファーシーアの一族>から六篇を読んでみて、本当に読み続けてきて良かったと思いました。最終巻で様々な伏線がいくつも繋がっていく展開は、心の中のわくわくが止まらず、読み進める手を止めることができませんでした。
左から
『黄金の狩人』
『仮面の貴族』
『白の予言者』
前の三部作はそれぞれ上下巻だったのですが、今回は3巻、3巻、4巻という大作になっています。なので写真は一冊ずつでご容赦ください。
最初の作品を読んだのは、おそらく高校生の時だと思うのですが、長い時をかけて<ファーシーアの一族>から六篇を読んでみて、本当に読み続けてきて良かったと思いました。最終巻で様々な伏線がいくつも繋がっていく展開は、心の中のわくわくが止まらず、読み進める手を止めることができませんでした。
映画『図書館戦争 THE LAST MISSION』鑑賞 〜フィクションはフィクションのままで〜 [小説・本の紹介]
映画『図書館戦争 THE LAST MISSION』を観てきました。銃火器を大量に使用したアクション映画に仕上がっていますが、訴えるものは原作と変わっていません。かなり振り切ったフィクションに実写で現実味を持たせて作るのは難しかったと思いますが、上手く表現されていたと思います。
物語は前作の続き。主人公の笠原が所属する関東図書隊が、茨城の美術館で開催される表現の自由をテーマにした展覧会で展示される図書を防衛するという任務を受けるといった筋書きです。今作で描かれているのは、命を賭して検閲から本を守りながらも、何も変わらない世の中への無力感や、メディア良化委員会との抗争で人を傷つけていることへの葛藤です。そしてもちろんラブストーリーもあります。
このテーマは、この物語が根本的に孕んでいる自己矛盾であって、言ってみれば著者が自らその矛盾にツッコミを入れている内容とも言えます。表現の自由を守るために武器を取って戦うことは是か否か、それは正義のために戦争をすることは正しいか、という問題にも似ています。
物語は前作の続き。主人公の笠原が所属する関東図書隊が、茨城の美術館で開催される表現の自由をテーマにした展覧会で展示される図書を防衛するという任務を受けるといった筋書きです。今作で描かれているのは、命を賭して検閲から本を守りながらも、何も変わらない世の中への無力感や、メディア良化委員会との抗争で人を傷つけていることへの葛藤です。そしてもちろんラブストーリーもあります。
このテーマは、この物語が根本的に孕んでいる自己矛盾であって、言ってみれば著者が自らその矛盾にツッコミを入れている内容とも言えます。表現の自由を守るために武器を取って戦うことは是か否か、それは正義のために戦争をすることは正しいか、という問題にも似ています。
道尾秀介『ノエル』〜ブックレビュー〜 [小説・本の紹介]
道尾秀介さんの小説『ノエル』を読みました。美しい物語たちの物語です。
この小説は「光の箱」「暗がりの子供」「物語の夕暮れ」の3篇と「四つのエピローグ」で構成されていて、それぞれは独立した物語でありながら、同じ人物が出てきて繋がっている物語でもあります。
本屋さんでこの本を手にしたとき、タイトルを見てもしやと思ったんですが、やはり最初のお話は新潮社刊の短編集『Story Seller』に収録されていたお話でした。私が道尾秀介さんをはじめて知った短編だったので、よく憶えていましたし、この話の続きが読めると思うとワクワクしました。
ノエル: -a story of stories- (新潮文庫)
- 作者: 道尾 秀介
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2015/02/28
- メディア: 文庫
この小説は「光の箱」「暗がりの子供」「物語の夕暮れ」の3篇と「四つのエピローグ」で構成されていて、それぞれは独立した物語でありながら、同じ人物が出てきて繋がっている物語でもあります。
本屋さんでこの本を手にしたとき、タイトルを見てもしやと思ったんですが、やはり最初のお話は新潮社刊の短編集『Story Seller』に収録されていたお話でした。私が道尾秀介さんをはじめて知った短編だったので、よく憶えていましたし、この話の続きが読めると思うとワクワクしました。
小説『風に立つライオン』〜ブックレビュー〜 [小説・本の紹介]
さだまさしの小説『風に立つライオン』を読みました。以前ご紹介した映画「風に立つライオン」の原作小説です。やはりこれも読んで良かった。本当に素晴らしい、魂のこもった物語でした。
あらすじは映画とだいたい同じで、ケニアに渡った医師・航一郎が物語の中心。彼が歩んだ道のりを色々な人が証言する形で進んでいきます。私はさださんの小説は過去に1、2本しか読んでいないのですが、この表現力は見事です。男性、女性、若者、老人、そしてアメリカ人と、様々な人の言葉を口語文で書いているのです。
特に、ケニアの赤十字病院の院長の回顧。本当にアメリカ人が使う単語を日本語に訳したような、しかも医者っぽい格式張った言葉で表現しています。これはすごい才能だと思います。
映画では、航一郎と彼の患者でケニア人の少年のンドゥングの物語でクライマックスを迎えますが、小説の結末はまだずっと先にあります。そう、小説では「あの日」の続きが描かれているのです。
あらすじは映画とだいたい同じで、ケニアに渡った医師・航一郎が物語の中心。彼が歩んだ道のりを色々な人が証言する形で進んでいきます。私はさださんの小説は過去に1、2本しか読んでいないのですが、この表現力は見事です。男性、女性、若者、老人、そしてアメリカ人と、様々な人の言葉を口語文で書いているのです。
特に、ケニアの赤十字病院の院長の回顧。本当にアメリカ人が使う単語を日本語に訳したような、しかも医者っぽい格式張った言葉で表現しています。これはすごい才能だと思います。
映画では、航一郎と彼の患者でケニア人の少年のンドゥングの物語でクライマックスを迎えますが、小説の結末はまだずっと先にあります。そう、小説では「あの日」の続きが描かれているのです。