米澤穂信『インシテミル』〜ブックレビュー〜 [小説・本の紹介]
ここのところ、会社の倉庫の引っ越しでバタバタして、あまりブログネタがありません。いや、あるにはあるんですが、記事にする気力と時間がないんです。そんな中で、私の通勤のお供をしてくれた一冊をご紹介します。米澤穂信『インシテミル』です。
作者お得意の「日常の謎」ミステリーとは一線を画す、本格ミステリー作品でした。以下よりいきなりネタバレするのでご注意下さい。
「人文科学的実験」と称した時給11万2千円の高額アルバイト。内容を知らされないままこのアルバイトに応募した12人が、地下空間に隔離されて7日間の殺人ゲームをさせられるというのが、簡単なあらすじ。人を殺したり、その犯人を言い当てたりすると報酬にボーナスが加算され、犯人だと指摘されたら逆に報酬が減らされてしまう、12人の参加者はどんな行動に出るのか…。
もしも自分がこんな状況に置かれたら…。より多くのお金欲しさに人を殺すだろうか。それとも恐怖に耐えられずに気が振れてしまうか。あるいは、最後まで平静で7日間を乗り切るか。どれもあり得る反応ですが、一番人間的でないのは「平静のまま過ごす」ことでしょう。閉鎖空間で誰が自分を襲うかわからないという状況で、冷静でいられるわけがありません。
でも、私を含め現代の日本人なら、そういう人も多いかもしれないとも思います。自分がもしそうだったら、それが一番怖い想像かもしれません。
さて、いかにも人が死にますよっていう作品は、恐怖感や陰鬱さが文章に出ることが多いと思うんですが、米澤さんが描く主人公・結城理久彦の目を通して語られる物語は割とサバサバしていて、あまり緊張感がありません。その点は米澤ワールドと言うべきでしょうか。主人公が探偵役を嫌う「古典部」シリーズや「小市民」シリーズと共通する作風です。
その分、この作品で初めて米澤穂信を読んだ人は、このサバサバ感を物足りなく感じてしまうかもしれません。でも、私はここに作者の作風のポイントがあるのではないかと思っています。
私の勝手な見立てですが、作者は「ミステリー」というジャンルのオマージュを書いているんだと思うんです。この作品を読むとよくわかるのですが、作者は相当な「ミステリー読み」です。作中では、国内、海外を問わず様々なミステリー作品のタイトルが出てきます。
ミステリーが好きだからこそ、先人たちの作品を読み込んで敬意を払っているからこそ、一歩引いてミステリーを組み立てられるんじゃないか。それが事件に対してどこか冷めた主人公たちに表れているのだと思います。主人公の心情に滲み出るミステリー的な展開をからかう余裕は、作者自身のミステリーに対するリスペクトの表れで、そのミステリーの殻を破ろうとする意識の表出なのではないでしょうか。
あまり作品紹介になっていない気もしますが、好きな作品でした。現在、この作品を原作にした映画も公開中ですので、今のうちに読んでみてはいかがでしょう。
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作者お得意の「日常の謎」ミステリーとは一線を画す、本格ミステリー作品でした。以下よりいきなりネタバレするのでご注意下さい。
「人文科学的実験」と称した時給11万2千円の高額アルバイト。内容を知らされないままこのアルバイトに応募した12人が、地下空間に隔離されて7日間の殺人ゲームをさせられるというのが、簡単なあらすじ。人を殺したり、その犯人を言い当てたりすると報酬にボーナスが加算され、犯人だと指摘されたら逆に報酬が減らされてしまう、12人の参加者はどんな行動に出るのか…。
もしも自分がこんな状況に置かれたら…。より多くのお金欲しさに人を殺すだろうか。それとも恐怖に耐えられずに気が振れてしまうか。あるいは、最後まで平静で7日間を乗り切るか。どれもあり得る反応ですが、一番人間的でないのは「平静のまま過ごす」ことでしょう。閉鎖空間で誰が自分を襲うかわからないという状況で、冷静でいられるわけがありません。
でも、私を含め現代の日本人なら、そういう人も多いかもしれないとも思います。自分がもしそうだったら、それが一番怖い想像かもしれません。
さて、いかにも人が死にますよっていう作品は、恐怖感や陰鬱さが文章に出ることが多いと思うんですが、米澤さんが描く主人公・結城理久彦の目を通して語られる物語は割とサバサバしていて、あまり緊張感がありません。その点は米澤ワールドと言うべきでしょうか。主人公が探偵役を嫌う「古典部」シリーズや「小市民」シリーズと共通する作風です。
その分、この作品で初めて米澤穂信を読んだ人は、このサバサバ感を物足りなく感じてしまうかもしれません。でも、私はここに作者の作風のポイントがあるのではないかと思っています。
私の勝手な見立てですが、作者は「ミステリー」というジャンルのオマージュを書いているんだと思うんです。この作品を読むとよくわかるのですが、作者は相当な「ミステリー読み」です。作中では、国内、海外を問わず様々なミステリー作品のタイトルが出てきます。
ミステリーが好きだからこそ、先人たちの作品を読み込んで敬意を払っているからこそ、一歩引いてミステリーを組み立てられるんじゃないか。それが事件に対してどこか冷めた主人公たちに表れているのだと思います。主人公の心情に滲み出るミステリー的な展開をからかう余裕は、作者自身のミステリーに対するリスペクトの表れで、そのミステリーの殻を破ろうとする意識の表出なのではないでしょうか。
あまり作品紹介になっていない気もしますが、好きな作品でした。現在、この作品を原作にした映画も公開中ですので、今のうちに読んでみてはいかがでしょう。
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映画のほうですが、登場人物の設定の改変はもとより、物語の重要アイテムであるメモランダムが省かれていたりと、この物語本来の魅力が活かされていなかったと感じました。
原作終盤でのミステリ(虚構)に対するリアルな自分達の姿勢、のような米澤さんの内面の声が全く聞こえてこなかったのも残念な出来でしたね……ありきたりな不条理環境下での勧善懲悪話で終わりにしてしまい、肝心のミステリに対して全く追求されなかったのがなっとくいきませんでした。
映画を見て米澤さんの名を知った、という人もこれから出て来ると思われますので、そういった方々にこそもう一度フラットな視点で読んで欲しい一冊です。
by 伊集院(闇) (2010-11-14 23:49)
伊集院(闇)さん、コメントありがとうございます。
読後に映画のホームページを閲覧して、どうも原作とは違いそうだなと思いました。役者の表情を見るだけでまったく違う作品だとわかります(笑)
結城理久彦が怯えた顔をしていたり、須和名祥子が元OLだったり、そこまで変えるなら名前も変えればいいのにって思っちゃいます。エンターテインメント映画も嫌いではないだけに…。
やっぱり原作は読んで欲しいですね。
by イソップ (2010-11-15 23:16)
コースケさん、niceありがとうございます。
by イソップ (2010-11-15 23:17)