『シャルルマーニュ伝説 中世の騎士ロマンス』〜ブックレビュー〜 [中世ヨーロッパ・騎士物語]
あれこれ本屋を探しても、中世騎士物語の代表作『ロランの歌』がなかなか見つからず、困っていたところでこの本を見つけました。
『中世騎士物語』(岩波文庫)の著者でもあるトマス・ブルフィンチが書いた(編纂した)いわゆる「十二勇士」モノの集成です。まえがき等を読むと、この作品はルネサンス期のイタリアの詩人たちが伝承を元に生み出した物語や、その他のさまざまな資料を元にブルフィンチが年代順に並べ直し、書いていったもののようです。この中には『ロランの歌』と同じ題材が収録されていますが、それが『ロランの歌』と同じ作品なのかどうかは私にはわかりませんでした。
しかし、この一連の物語はかなり巧みに構成されていて、中世騎士物語にしては意外なほど複雑な展開をもっていました。一人ひとりの勇士の物語が互いに影響し合っていて、単独で完結する物語がないのです。ある冒険で勇士が囚われた城に、別のところで全く違う冒険をしていた勇士が、全く違う冒険のために攻めていき、結果的に囚われていた勇士が助けられるというような展開が多数ありました。
また、面白いと思ったのは、いわゆる“サラセン人”=ムスリム(イスラム教徒)との戦いが一つのテーマになっていて、戦いの場がヨーロッパだけではなくアジアやアフリカなどにすぐ移って行けてしまうところです。アラブの人々の描写やイスラームへの理解などは全く見られませんが、ヨーロッパとイスラムの騎士同士で意外とフランクに会話ができたり、簡単に“マホメット教”(イスラーム)からキリスト教への改宗が行われたりして、当時のヨーロッパ人がこんな風に他の地域を見ていたんだというのがかすかに感じられました。
ただ、シャルルマーニュ大帝の描かれ方がちょっと可哀想だという印象を持ちました。というのも、大帝は戦場に赴く場面がほとんどなくて、なんにもやらないただの親ばかのように描かれているんです。『アーサー王物語』における晩年のアーサー王にちょっと似ている気もしました。史実のシャルルマーニュ大帝はかなり活動的で、年がら年中、領地を巡回していたそうなんですが…。これについては著者自身が書いているように、この物語はシャルルマーニュ大帝その人の事績だけではなく、他の「シャルル」の名を持つ何人かの王の行為も混ぜ込まれて伝説になったんだろうということのようです。
私が今までに読んだ騎士物語とは少し違ったテイストの作品でした。
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