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十字軍〜戦術の伝播〜 [中世ヨーロッパ・騎士物語]

大学に入って勉強していると、知らないこと、間違った認識をしていることがよくあります。その度にまだまだ勉強不足だなと痛感するのですが、今までモヤモヤしていたことが分かって感動したり、あるいは自分の考えとあまりにもかけ離れた現実を見せつけられて落胆したりと、両方の面で言い刺激を受けています。

西洋史専攻ですので、もちろん歴史関係のことが多く、特に悩まされるのは、最新の研究動向でもある中世の西欧と東方世界の関係です。

中世における東西の関係で忘れてならないのはやはり十字軍でしょう。私は以前から「十字軍なんて聖地奪還とか言ってるけど、異教徒に対してなんの寛容性もない野蛮な戦闘集団じゃないか」などと、ひねくれた印象を持っていたのですが(この考え自体は基本的に今でも変わっていませんが)、実際には東西の交流という面で大きな役割を担っていました。

十字軍の意義の全てをここで述べると大変なことになりそうなのですが(第一そんな知識が私にはない)、今回私が紹介したいのは戦術の伝播という側面です。
当時のヨーロッパ側の戦術というのは騎乗の戦士である騎士が敵陣に突撃していって戦うのが中心で、それに歩兵や徒歩の弓射手が補助的に戦闘に加わるというスタイルでした。弓兵は徒歩のため機動性がなく、敵が射程内にはいるまでにかなり時間がかかるため、ほとんど機能していませんでした。

ところが第1回十字軍の時、セルジューク・トルコの軍勢と戦闘した際に馬に乗った射手の猛攻に遭い、大損害を受けたのです。
当時の西洋は馬自体が少なく、高級品であったという事情もあって、脇役の弓兵に馬をあてがうという発想がありませんでした。しかし、この時騎射の有効性を知り、その後は軽装騎兵制を採用。第2回十字軍の時には軽騎兵司令官の職名も資料に登場するまでになりました。

中世は様々な面で、東洋世界が西洋をリードしていた時代です。こうした交流の中でしだいに西洋が力を持ち、近代へと時代が変わっていったという側面は忘れてはならないと思います。

世界の戦争 (5)

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  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1985/12
  • メディア: 単行本


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コメント 5

kimuko

こんにちは。十字軍はいろいろな側面から研究されていて、研究史を纏めるだけでも大変なところですよね。しかも現在の出来事からも、中東、異文化の出会い、といったところで、実は今、結構熱い出来事でもありそうです。
私が十字軍でショックを受けたことは、ヨーロッパにとっては「全キリスト教徒(といってもカトリックだけ)が力を合わせて聖地を奪回すべし」といって始まったのにもかかわらず、イスラム側からするとただの僻地でのちょっとした小競り合い、程度という認識しかなかったことですかね。なんか、一人で舞い上がっちゃってる感じがして、そこはかとない哀愁を感じました。
by kimuko (2006-08-02 18:58) 

イソップ

そういうところを見ても、イスラームの方は懐が深い感じがありますよね。現代を見ると原理主義とか、自爆テロとかが目立ちますけど、オスマン帝国ではキリスト教徒などを改宗させずに国内に住ませたり、元々は異教徒に対して寛容な宗教なんですよね。
by イソップ (2006-08-02 21:33) 

yoku

セルジューク・トルコ、オスマン・トルコともに確か
遊牧民系の民族だったと思いますが、彼等は
やはり馬の扱いに慣れていたので当時のヨーロッパ人も
圧倒されたでしょうね。
確かに、スペインでもカソリックは、イスラム教徒に改宗を
迫り、イスラム側はカソリック教徒には税金さえ払えば
良いとしていました。
by yoku (2006-08-03 05:30) 

イソップ

yokuさん>
niceありがとうございます。
アラブは名馬の産地としても有名ですし、馬に関してはイスラームの側に一日の長があったんでしょうね。
by イソップ (2006-08-03 17:15) 

イソップ

lapisさん>
わざわざお越しいただき、niceまでいただきありがとうございます。
by イソップ (2006-08-14 11:36) 

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