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短編集『Story Seller』〜ブックレビュー〜 [小説・本の紹介]

 新潮社が放つ自信の読み切り集『Story Seller』のご紹介。若手作家を中心に7人の作家の100ページ前後の中編小説を集めて一冊にした文庫本です。元々は小説新潮(雑誌)の別冊で編まれたものだそうです。


Story Seller (新潮文庫)

Story Seller (新潮文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2009/01/28
  • メディア: 文庫



 短編集全体を通してですが、「書く側」の凄さを実感させられました。ハズレ無し、7篇すべてが秀作です。どれも違った魅力を持って「読む側」に訴えてきました。


 私自身、現代小説はそれほど読んでいないので、7人中5人は初めて読む作家でした。嫌いなわけではなくて、ファンタジーが好きで遅読なだけです。ただ、現代小説は読んでみるとどんどん進みますね。たまたま今回の作家さんと相性が良かったのかもしれませんが、いつになく速いスピードで読み終わりました。


 あまりに良かったので、全7篇の簡単なあらすじと読後感想を書いてみました。




伊坂幸太郎「首折り男の周辺」
 殺し屋「首折り男」の周囲の人々の視点から描かれる不思議な物語。この人が描く裏の世界は独特な空気を放っていて、引き込まれます。漫画『魔王』の続編「Waltz」(ゲッサン連載中)でもちょうど首折り男の名前が出てきているので、平行して楽しめました。


近藤史恵「プロトンの中の孤独」
 寝る前に読み始めて、一気に全部読んでしまいました。自転車レースのチームに所属する主人公たちのちょっと遅めの青春ストーリー。レースのシーンはスピード感を見事に表現していて、終盤に向けて加速していく描写と、ふっと一瞬スローになる感覚は映像を見るように鮮やかに描かれています。


有川浩「ストーリー・セラー」
 書名と同名の作品(書名はアルファベット表記で、作品名はカタカナ表記)。この短編集の中で最も感情を動かされた一遍です。小説を読むのが好きな男性と、小説を書くのが趣味の女性の出会いから始まる愛と闘争の物語。

 書いたものを常に評価される物書きの孤独と、書かずにはいられない物書きの苦悩との葛藤が鋭く伝わってくる作品でした。特に男女の心情描写と筋立ての巧みさには恐れ入ります。私のイメージでは主演女優は市川実和子さん。


米沢穂信「玉野五十鈴の誉れ」
 ふた昔前の日本の上流階級を描いた短編。地元の名士の家に生まれたヒロインと使用人の友情物語と思っていると、途中でガラッと転調します。むき出しの跡目争いとそれぞれの愛が交錯して、ラストはちょっとホラーテイスト。


佐藤友哉「333のテッペン」
 東京タワーを舞台に殺人事件が起こるミステリー。主人公のくどくどした思考世界を流れるような文章で表現する手法に引き込まれました。登場人物みんなが独特な言葉遣いをするのも印象的。会話の場面は不思議な感覚で面白かったです。


道尾秀介「光の箱」
 何を書いてもネタバレになるような入り組んだ物語。私の中ではかなりのヒットでした。辛い環境の中で幼少時代を過ごした男女。物語を書くことで現実から逃れる少年と、絵を描くことで嫌なことを忘れる少女。二人はそれぞれの趣味を通して惹かれ合い、ある時二人は絵本を書きます。

 ストーリーの流れや構成のセンスが素晴らしかったです。多感な青春時代のちょっとした気持ちの揺れや些細なすれ違い、そこから生じる感情が起こした恐慌。そんな小さなことが、こんな取り返しのつかない恐慌になるはずがないのに…、人間のどうにもできない未熟さというものを感じました。


本多孝好「ここじゃない場所」
 妄想少女の突進勘違いミステリー。普通じゃないことに憧れて、そこへたどり着くためには手段を選ばない姿が「普通じゃない」。彼女の推測に対して、読者は何度も「違うだろ」とツッコミを入れてしまうくらいなんですが、思いこみでどんどん進んでいく展開が新鮮でした。


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