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『イエスの生涯』〜ブックレビュー〜 [霊界・神話・伝説]

 読んだ本の紹介。今回は、遠藤周作さんの評伝(だと思います)『イエスの生涯』。 以前このブログで紹介した『イエスはなぜわがままなのか』(岡野昌雄、アスキー・メディアワークス)よりも専門的なので、この本を読もうとされる方は、福音書を一読しておくことをお勧めします。



イエスの生涯 (新潮文庫)

イエスの生涯 (新潮文庫)

  • 作者: 遠藤 周作
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1982/05
  • メディア: 文庫



 この本は福音書(新約聖書)の中の事実と真実を、キリスト者としての信仰心と小説家としての発想力から、探ろうと試みたものだと私は感じました。私は遠藤周作さんの書いたものを読むのは初めてでしたが、この方のキリスト教に対する真摯な姿勢が強く伝わりました。


 読む前は、小説家の作品だから小説っぽいのかなと思ったのですが、読んでみると福音書の解説書、解釈本のようで、勉強になりました。作者はイエスに関する研究を徹底して調査していて、確定している史実と曖昧な事柄の線引きもしっかり行っています。


 そのうえで自分の解釈、納得のいく考えを述べているので、読んでいて事実誤認をおかすこともないですし、むしろキリスト教に対する偏見や誤解を取り除いてくれるほどでした。


 この本を通して作者が描き出したのは、「無力なイエス」の生涯でした。


 福音書の中で、イエスはさまざまな「奇蹟」をを起こしますが、イエスがその力を顕さなくなると次第に民衆は彼の元から去っていきました。イエスの説く「愛の神」は人々に受け入れられず、それは弟子達にも理解されませんでした。


 イエスが病人に歩み寄ったとき、周囲が期待したのは病が治るという具体的な利益でしたが、イエスが行ったのは、ただ病人の傍にいることだけでした。イエスの愛は、苦しむ人と一緒になって苦しみ、孤独を取り除くことだったからです。


 現実には何の役にも立たない愛を説くイエス。それでも不幸な人々を救うためには、自分は一人ではないと教えてあげることが何よりも大切なのだ、とイエスは考えていたのだ、作者の理解はそこにあります。


 だからこそイエスは、もっとも苦しんで、嘲られて死ななければならなかったのです。


 私はキリスト教についての授業も受けて、福音書も一通り目を通しているのですが、福音書の表現には、現代の我々には曖昧な箇所が多くあります。この本で私は、疑問を感じていたこと、誤解していたことがいくつも解消しました。きっと作者自身も私たちと同じようなことに疑問を持ったから、この本を書いたのでしょう。


 臆病な弟子達の回心の謎に関する考察やユダに対する深い洞察などは納得させられるリアリティがありました。福音書に登場する人々のそれぞれが、イエスと出会い、イエスの死に立ち会い、イエスによってどう変えられたのか、その心情を想像し、切々と語る文章は小説家ならではの洞察にあふれています。


 キリスト教に興味のある方は、一度手に取ってみてはいかがでしょうか。


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