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メアリ・シェリー『フランケンシュタイン』感想〜ブックレビュー〜 [小説・本の紹介]

 先日、メアリ・シェリーの小説『フランケンシュタイン』を読みました。数年前に買って、読まなければと思っていながら、なかなか手が伸びなかった本です。きっかけは太田光さんの小説『文明の子』の中で、この物語が登場したからです。読んでみると、意外と読みやすくて面白い小説でした。


フランケンシュタイン (創元推理文庫 (532‐1))

フランケンシュタイン (創元推理文庫 (532‐1))

  • 作者: メアリ・シェリー
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 1984/02/24
  • メディア: 文庫


 カバーイラストはこれではなくて、東京創元社の文庫創刊50周年限定カバーのもの。


 この小説は数々の映像や文学に影響を与えた、言わずと知れた名作なので私が紹介する必要もないでしょうから、ただ感想だけを綴ります。


 私がこの物語で感情移入したのは、怪物の心理描写でした。フランケンシュタイン博士によって生み出された人造人間で、人間より身体が大きく、恐怖を与えるほどに醜い姿をしています。彼は命を与えられてすぐに博士から捨てられ、無知で無垢な赤子の魂のままで外の世界に晒されます。



 人間は生まれながらに善なる性質か、悪なる性質か。いわゆる性善説と性悪説の問題が、この小説でもカギになります。小説の中で描かれる怪物は赤ん坊そのもので、その成長過程を自ら語る場面では五感の認識から言語の習得まで細かく描写が成されます。怪物は太陽の暖かさを喜び、孤独に怯え、小鳥のさえずりに心を揺さぶられます。自らを語る怪物の心理は非常に繊細で感性の鋭い人間の心でした。


 しかし、彼にとっての悲劇は、フランケンシュタイン博士が自分の姿を醜く作ったことでした。人間は自分を見ると逃げ出すか、暴力によって追い立てようとします。気高く、善良な心を持って生まれてきたのにもかかわらず、彼は他の人間と違う姿をしているというだけで恐れられ、憎まれ、迫害されたのです。


 善良だった彼の魂は、人間によって脅かされたという記憶によって変質し、人間を憎む本当の怪物へと変わってしまいました。そして怪物は、醜い自分を生み出し、つらく孤独な思いをさせた張本人であるフランケンシュタイン博士への強烈な復讐心を覚えるようになるのです。


 私は初めて『フランケンシュタイン』の原作に触れて、怪物への印象を大きく覆されました。私は今まで、フランケンシュタインの怪物はなにか得体の知れない存在で、目的もなく人を害する手のつけられない生物なのだと思っていました。しかしこの小説で描かれる怪物はとても人間的で、孤独を恐れる社会的な生き物だったのです。


 私は怪物が成長し、人間的な感性を習得していく姿を喜び、人間と親しくなろうとする姿勢を応援し、憎悪と復讐の鬼となる姿に悲しみました。この怪物の一挙一動が、人間の根源的な感情を体現しているように感じました。


 この物語には現代社会に通じる様々なテーマが込められているように感じました。外見による差別、人種差別、集団の中での異質な存在への対応、科学と倫理、親と子の関係、親の責任など、挙げればきりがありません。


 およそ2世紀前に書かれた小説ですが、様々な分野で教養となる作品だと思うので、一読してみることをオススメします。

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