近藤史恵『エデン』〜ブックレビュー〜 [小説・本の紹介]
久しぶり日本の紹介です。近藤史恵さんの『エデン』。自転車ロードレース競技を扱った作品で、前作の『サクリファイス』は第5回本屋大賞で2位になっていて、過去にこのブログでも記事を書きました。
今回の舞台はヨーロッパ最高峰のレース、ツール・ド・フランス。男たちが走る3000キロの道のりは様々な思いが交錯する険しい世界でした。
主人公は前作と同じ白石誓(ちかう)。彼はヨーロッパのプロチームに渡り、やはり【アシスト】としてエースの勝利に貢献する役割を担っています。エースのミッコはロードレース界でも1,2を争う実力の持ち主。主人公は彼を勝たせることにやり甲斐を感じていました。
そんな彼らのもとに、今季限りでのチームスポンサー撤退の報せが舞い込みます。スポンサー撤退はそのままチームの解散を意味します。チーム解散を回避するため、監督が新しいスポンサーとの間に交わした条件は一つ。ツール・ド・フランスで敵チームの【アシスト】をすることでした。
レースで目立った成績を残していない主人公にとって、チーム解散はプロ生命に関わる問題です。チームアシストとしてエースを勝たせた功績は記録には残らないため、他のチームから声がかかる保障はどこにもありません。次の契約が見つからなければ、アマチュアチームで走るか、引退かの選択を迫られるのです。主人公はチームの決定に反発しながらも、自身の身の処し方に葛藤します。それでも、彼を突き動かしたのは【アシスト】としての誇りでした。
あらすじが長くなってしまいました。今回も大きなテーマの一つは【アシスト】のアイデンティティです。小説の中の話ですが、やはりこの【アシスト】という仕事は日本人の気質に合っていると思います。自分が前に出るのではなく、地味で目立たないけれども、役割をきっちりこなしてチームを回す、この価値観にはとても共感できます。
もう一つのテーマがドーピングです。自転車競技にはドーピングの問題が常について回るようで、先日も元選手のアームストロング氏が薬物使用を認めたことが話題になっていました。この小説でも、主人公が初めて売人に声をかけられる場面が描かれます。「みんなやっている」とか「正直者が馬鹿を見る」といった言葉で誘う売人の声を、主人公は振り払いますが、その言葉は心の中に刻み込まれ、記憶から締め出すことができません。
辛く過酷な自転車競技を行う身として、売人の言葉に唆される選手の気持ちが主人公には痛いほど分かるのです。しかし、それで得た栄光は裏切り者の烙印と共に崩れ去り、競技全体のイメージをも貶める結果になることも知っているのです。そして、それでも悲劇は起こるんです。
自転車競技そのものも、とても独特で面白い要素がたくさんありました。その一つは、レース中に同じチームの仲間以外とでも協力をすることです。簡単な例は集団の先頭交代。マラソンなんかもそうですが、自分の人が前にいるとそれが風よけになって体力の消耗を抑えてくれます。ロードレースでは各チームのアシストが代わる代わる先頭を受け持って、1チームに負担がかからないようにするんです。
それ以外でも、敵チーム同士でレース中に会話もするし、戦況やチームの利害が許せば個別に協力して走ることもあると言います。実際に観戦してみたら、様々な駆け引きがあって面白いんだろうなぁと、まだ観たこともないのに思ってしまいます。
まとまらない文章になりましたが、今作もとても楽しんで読めました。続編は短編集として既に刊行されているようです。こちらにも手を伸ばしてみます♪
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今回の舞台はヨーロッパ最高峰のレース、ツール・ド・フランス。男たちが走る3000キロの道のりは様々な思いが交錯する険しい世界でした。
主人公は前作と同じ白石誓(ちかう)。彼はヨーロッパのプロチームに渡り、やはり【アシスト】としてエースの勝利に貢献する役割を担っています。エースのミッコはロードレース界でも1,2を争う実力の持ち主。主人公は彼を勝たせることにやり甲斐を感じていました。
そんな彼らのもとに、今季限りでのチームスポンサー撤退の報せが舞い込みます。スポンサー撤退はそのままチームの解散を意味します。チーム解散を回避するため、監督が新しいスポンサーとの間に交わした条件は一つ。ツール・ド・フランスで敵チームの【アシスト】をすることでした。
レースで目立った成績を残していない主人公にとって、チーム解散はプロ生命に関わる問題です。チームアシストとしてエースを勝たせた功績は記録には残らないため、他のチームから声がかかる保障はどこにもありません。次の契約が見つからなければ、アマチュアチームで走るか、引退かの選択を迫られるのです。主人公はチームの決定に反発しながらも、自身の身の処し方に葛藤します。それでも、彼を突き動かしたのは【アシスト】としての誇りでした。
あらすじが長くなってしまいました。今回も大きなテーマの一つは【アシスト】のアイデンティティです。小説の中の話ですが、やはりこの【アシスト】という仕事は日本人の気質に合っていると思います。自分が前に出るのではなく、地味で目立たないけれども、役割をきっちりこなしてチームを回す、この価値観にはとても共感できます。
もう一つのテーマがドーピングです。自転車競技にはドーピングの問題が常について回るようで、先日も元選手のアームストロング氏が薬物使用を認めたことが話題になっていました。この小説でも、主人公が初めて売人に声をかけられる場面が描かれます。「みんなやっている」とか「正直者が馬鹿を見る」といった言葉で誘う売人の声を、主人公は振り払いますが、その言葉は心の中に刻み込まれ、記憶から締め出すことができません。
辛く過酷な自転車競技を行う身として、売人の言葉に唆される選手の気持ちが主人公には痛いほど分かるのです。しかし、それで得た栄光は裏切り者の烙印と共に崩れ去り、競技全体のイメージをも貶める結果になることも知っているのです。そして、それでも悲劇は起こるんです。
自転車競技そのものも、とても独特で面白い要素がたくさんありました。その一つは、レース中に同じチームの仲間以外とでも協力をすることです。簡単な例は集団の先頭交代。マラソンなんかもそうですが、自分の人が前にいるとそれが風よけになって体力の消耗を抑えてくれます。ロードレースでは各チームのアシストが代わる代わる先頭を受け持って、1チームに負担がかからないようにするんです。
それ以外でも、敵チーム同士でレース中に会話もするし、戦況やチームの利害が許せば個別に協力して走ることもあると言います。実際に観戦してみたら、様々な駆け引きがあって面白いんだろうなぁと、まだ観たこともないのに思ってしまいます。
まとまらない文章になりましたが、今作もとても楽しんで読めました。続編は短編集として既に刊行されているようです。こちらにも手を伸ばしてみます♪
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スイマセン、耕作でした。名前を入れ忘れたかな?
by 耕作 (2013-02-23 10:28)